microscopic polyangiitis: MPA

顕微鏡的多発血管炎

顕微鏡的多発血管炎

顕微鏡的多発血管炎は、全身の小さな血管に炎症が起こり、さまざまな臓器に障害をもたらす自己免疫疾患です。ANCA関連血管炎の一つで、特に腎臓と肺が障害されやすいことが特徴です。60代から70代の高齢者に多く発症し、男女比はほぼ同等とされています。早期診断と適切な治療が予後を大きく左右する疾患です。

原因とリスクファクター

顕微鏡的多発血管炎のはっきりとした原因はまだ分かっていませんが、免疫の働きが乱れ、自分自身の血管を攻撃してしまうことで発症すると考えられています。好中球の一部を標的とする「ANCA(抗好中球細胞質抗体)」という自己抗体が検出され、とくにミエロペルオキシダーゼ(MPO)を標的とするMPO-ANCA陽性例が日本では高率です。

遺伝的な体質、加齢、環境因子(感染症や薬剤など)が複合的に関与していると考えられています。

症状

顕微鏡的多発血管炎の症状は、「全身症状」と「臓器症状」の2つに分けられます。腎臓と肺の障害は命に関わることがあるため、早期発見が重要です。

全身症状

発熱、倦怠感、体重減少、食欲不振、関節痛、筋肉痛などが数週間から数ヶ月にわたって続きます。風邪のような症状が長引いていると感じることもあります。これらの症状は疾患の初期から現れることが多く、徐々に進行していきます。

腎臓の症状

急速進行性糸球体腎炎を発症し、血尿、タンパク尿、腎機能の急速な悪化が見られます。むくみ、尿量の減少、高血圧などが出現することもあります。治療が遅れると透析が必要になることもあるため、早期発見が極めて重要です。

肺の症状

肺胞出血を起こすことがあり、咳、血痰、息切れ、呼吸困難などの症状が現れます。また、間質性肺炎を合併することもあり、長引く咳や労作時の息切れが見られます。

皮膚症状

紫斑(主に下肢に現れる赤紫色の点状出血)、網状皮斑(網目状の赤紫色の模様)、潰瘍などが出現することがあります。触れると痛みを伴う紫斑が特徴的です。

神経症状

末梢神経障害により、手足のしびれ、感覚異常、筋力低下などが起こることがあります。

その他の症状

消化管出血(腹痛、血便)、眼症状(結膜炎、強膜炎、視力障害)、心臓病変(心筋炎、心膜炎)、耳鼻科症状(副鼻腔炎、中耳炎、難聴)などが起こることもあります。

診断方法

顕微鏡的多発血管炎の診断は、症状・診察所見・検査結果を総合的に評価して行います。

・血液検査

MPO-ANCAが陽性となることが多く、診断に重要な検査です。炎症マーカー(CRP、赤血球沈降速度:ESR)の大幅な上昇が認められます。腎機能検査(血清クレアチニン、BUN)で腎機能の低下を評価します。

・尿検査

血尿、タンパク尿、円柱尿などの異常が認められます。早期に腎障害を発見するために重要な検査です。

・画像検査

胸部X線やCT検査で、肺胞出血や間質性肺炎の所見を評価します。その他、必要に応じて各臓器の画像検査を行います。

・組織生検

腎生検を行い、組織の所見を確認することが診断の決め手となります。皮膚生検や肺生検が行われることもあります。

顕微鏡的多発血管炎は、同じANCA関連血管炎である多発血管炎性肉芽腫症や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症などと似た点も多く、これらとの鑑別も重要です。

治療の方針

顕微鏡的多発血管炎は進行が速く、重篤な臓器障害を引き起こす可能性があるため、早期の診断と強力な治療が必要です。治療の目標は、炎症を速やかに抑え込み(寛解導入)、その状態を維持し(寛解維持)、臓器障害の進行を防ぐことです。

寛解導入療法(急性期治療)

  • ステロイド: 炎症を強力に抑えるために、副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロンなど)が用いられます。重症度に応じて、短期間で大量のステロイドを点滴するステロイドパルス療法が行われることもあります。
  • 免疫抑制薬: ステロイドと併用して、免疫システムの異常な働きを抑える免疫抑制薬(シクロホスファミド、リツキシマブなど)が用いられます。

寛解維持療法

  • ステロイドを徐々に減量し、低用量のステロイドと免疫抑制薬(アザチオプリン、リツキシマブなど)を継続して投与します。
  • 治療期間は長期にわたり、定期的な診察と検査で病状を厳重にモニタリングします。

日常生活の注意点

  • 服薬の遵守: ステロイドや免疫抑制薬は、自己判断で中断したり、量を変更したりすると病気が再燃する危険性があります。医師の指示通りに正確に服用してください。
  • 感染症の予防: 免疫抑制薬を使用しているため、感染症にかかりやすくなります。手洗いやうがい、人混みを避ける、インフルエンザや肺炎球菌のワクチン接種など、徹底した予防が必要です。
  • 安静と休養: 疲労やストレスは病気の再燃の引き金になることがあります。無理のない範囲で日常生活を送ることが大切です。
  • 副作用のモニタリング: ステロイドや免疫抑制薬の使用に伴い、感染症予防、骨粗鬆症予防、消化性潰瘍予防などの対策を行います。定期的な検査で副作用をモニタリングすることが重要です。

自己チェックリスト

  • 原因のはっきりしない発熱や強いだるさが続いている
  • 短期間で体重が減ってきた
  • 尿検査で血尿や蛋白尿を指摘された、もしくは健診異常を放置している
  • 最近、むくみや血圧上昇が気になる
  • 以前より息切れしやすくなった、空咳が続く、血の混じった痰が出たことがある
  • 皮膚に赤紫の斑点(紫斑)が出やすい
  • 手足のしびれ・力の入りにくさが出てきた
  • 関節痛や筋肉痛が長く続いている

これらの症状は、他の病気でもみられるため、必ずしも顕微鏡的多発血管炎とは限りません。しかし、腎臓や肺の障害が進行してしまう前に診断・治療を開始することがとても重要です。

まとめ

顕微鏡的多発血管炎は、小さな血管に炎症が起こる全身性の自己免疫疾患で、とくに腎臓や肺に障害が起こりやすい病気です。進行すると腎不全や重い肺障害となることもありますが、早期に診断し、適切な免疫抑制療法やステロイド治療を行うことで、症状の改善と臓器障害の進行抑制が期待できます。

参考
  1. 日本リウマチ学会「顕微鏡的多発血管炎(MPA)」