hypertension

高血圧

高血圧

高血圧は、日本人の約3人に1人が抱えている非常に一般的な疾患であり、長期間にわたり血圧が高い状態が続くことで、心臓・脳・腎臓などの重要な臓器に障害をもたらす病気です。
高血圧を適切に管理することで、心筋梗塞・脳卒中・腎不全などの重篤な合併症を大幅に減らすことができるため、早期発見と継続した治療が非常に重要です。

血圧とは

血圧は、心臓が血液を全身に送り出すときに血管の壁にかかる圧力のことです。血圧は2つの数値で表されます。

  • 収縮期血圧(上の血圧): 心臓が収縮して血液を送り出すときの血圧
  • 拡張期血圧(下の血圧): 心臓が拡張して血液を溜めるときの血圧

日本高血圧学会のガイドラインでは、診察室血圧が140/90mmHg以上、家庭血圧が135/85mmHg以上を高血圧と定義しています。
特に、ご自宅で測る家庭血圧は、リラックスした状態での血圧を反映するため、より重要視されています。

原因とリスクファクター

高血圧は、原因によって2つのタイプに分けられます。

本態性高血圧(一次性高血圧)

高血圧患者の約90%を占めるタイプで、明確な原因が特定できない高血圧です。遺伝的な体質、加齢、生活習慣などが複合的に関与していると考えられています。
主なリスクファクターとして、以下が挙げられます。

  • 遺伝的素因:家族に高血圧の方がいる場合、発症しやすくなります
  • 加齢:血管の弾力性が低下し、血圧が上がりやすくなります
  • 食生活:塩分過多、肥満、アルコールの飲み過ぎなど
  • 運動不足
  • ストレス・睡眠不足
  • 喫煙

二次性高血圧

他の病気や薬剤が原因で起こる高血圧で、高血圧患者の約10%を占めます。原因となる病気を治療することで、高血圧が改善する可能性があります。
主な原因疾患として、腎臓病、内分泌疾患(原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫など)、睡眠時無呼吸症候群、大動脈縮窄症などがあります。また、一部の薬剤(NSAIDs、ステロイド、甘草含有製剤など)も高血圧の原因となることがあります。

症状

高血圧の最も厄介な特徴は、ほとんどの場合、自覚症状がないことです。そのため、健康診断などで偶然発見されることが多く、気づかないうちに血管や臓器にダメージが蓄積していきます。
一部の方では、以下のような症状を感じることがあります。

  • 頭痛
  • めまい
  • 動悸
  • 肩こり
  • 耳鳴り
  • だるさ

ただし、これらの症状は他の病気でもみられるため、高血圧特有の症状とは言えません。血圧が非常に高くなった場合(高血圧緊急症)には、激しい頭痛、視力障害、胸痛、呼吸困難、意識障害などが現れることがあり、直ちに医療機関を受診する必要があります。

高血圧が引き起こす合併症

高血圧を放置すると、全身の血管や臓器に深刻な障害をもたらします。

脳血管障害

脳梗塞、脳出血、くも膜下出血のリスクが高まります。突然の片麻痺、言語障害、意識障害などが起こり、命に関わることもあります。

心臓病

心肥大、心不全、狭心症、心筋梗塞のリスクが上昇します。動悸、息切れ、胸痛などの症状が現れることがあります。

腎臓病

腎硬化症により、徐々に腎機能が低下していきます。進行すると、むくみ、尿量の減少などが現れ、最終的には透析が必要になることもあります。

大血管疾患

大動脈瘤、大動脈解離のリスクが高まります。突然の激しい胸痛や背部痛が出現し、緊急手術が必要になることもあります。

眼の障害

高血圧性網膜症により、視力障害が起こることがあります。

認知症

脳の小さな血管が障害され、血管性認知症のリスクが高まります。

診断方法

高血圧の診断は、血圧測定・診察・検査結果を総合的に評価して行います。

・血圧測定

診察室での血圧測定に加えて、家庭血圧測定が重要です。診察室では緊張して血圧が高くなる「白衣高血圧」や、逆に診察室では正常だが家庭では高い「仮面高血圧」を見逃さないために、家庭での血圧測定を積極的に推奨しています。

家庭血圧は、朝(起床後1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前)と夜(就寝前)に測定します。

・血液検査

腎機能検査(血清クレアチニン、eGFR)、電解質、血糖値、脂質、尿酸などを測定し、臓器障害の程度や、動脈硬化のリスクファクターを評価します。二次性高血圧が疑われる場合は、ホルモン検査なども行います。

・尿検査

タンパク尿や血尿の有無を調べ、腎障害の早期発見に役立てます。

・心電図・心エコー検査

心肥大や心機能の評価を行います。

・その他の検査

必要に応じて、頸動脈エコー、眼底検査などの検査などを行います。

治療の方針

高血圧の治療は、生活習慣の修正と薬物療法の二本柱で行われます。

1.生活習慣の修正(非薬物療法)

  • 軽度の高血圧や、薬物療法を開始する前の段階で、まず取り組むべき治療の基本です。
  • 血圧を下げるだけでなく、心臓病や脳卒中のリスクを総合的に減らす効果があります。

2.薬物療法(降圧薬)

  • 生活習慣の修正だけでは目標血圧に達しない場合や、血圧が非常に高い場合、あるいは合併症のリスクが高い場合に開始します。
  • 患者様の状態や合併症に応じて、様々な種類の降圧薬(カルシウム拮抗薬、ARB/ACE阻害薬、利尿薬など)の中から最適なものを選択します。

目標血圧

一般的には、診察室血圧で130/80mmHg未満、家庭血圧で125/75mmHg未満を目指します。ただし、年齢や合併症の有無によって目標値は調整されます。

生活習慣の改善

具体的な目標と方法
減塩食塩摂取量を1日6g未満に抑えましょう。だしや香辛料を活用し、加工食品や外食を控えましょう。
適正体重の維持BMI 25未満を目指しましょう。特に肥満の方は、体重を減らすことが血圧低下に直結します。
運動毎日30分以上の有酸素運動(ウォーキング、ジョギングなど)を目標としましょう。
節酒アルコール摂取量を控えましょう。目安はエタノール換算で男性20~30ml/日以下、女性10~20ml/日以下。
野菜・果物の摂取カリウム、マグネシウム、食物繊維が豊富な野菜や果物を積極的に摂りましょう。
禁煙喫煙は血圧を上げ、動脈硬化を促進する最大の危険因子です。禁煙しましょう。

日常生活の注意点

  • 薬を自己判断で中断しない
  • 家庭血圧を記録し、来院時に提示する
  • 塩分・アルコールを控える
  • 定期的に腎機能や尿検査を受ける
  • 体重・生活習慣を見直す習慣をつける

高血圧は長く付き合う病気ですが、適切に管理することで合併症を防ぎ、健康な生活を続けることが可能です。

自己チェックリスト

以下の項目に当てはまる方は、高血圧のリスクが高い、またはすでに高血圧の可能性があります。

  • 健康診断で血圧が高いと言われた
  • 家庭で測る血圧が135/85 mmHg以上
  • 塩辛い食べ物が好き
  • 肥満気味である(BMI 25以上)
  • 運動不足である
  • お酒をよく飲む(毎日2合以上)
  • 喫煙している
  • ストレスが多い
  • 睡眠不足が続いている
  • 頭痛やめまい、肩こりが気になる

これらに該当する方は、一度医療機関を受診し、血圧測定や詳しい検査を受けることをお勧めします。

まとめ

高血圧は、自覚症状がほとんどないまま進行し、脳卒中や心臓病、腎臓病などの重大な合併症を引き起こす病気です。しかし、適切な生活習慣の改善と薬物療法により、血圧を良好にコントロールすることで、これらの合併症を予防し、健康寿命を延ばすことができます。
「血圧が少し高いくらいなら大丈夫」と軽く考えず、早期発見・早期治療、そして継続的な管理が何より重要です。気になる症状がある方、健診で指摘を受けた方は、お気軽にご相談ください。

参考
  1. 厚生労働省 「高血圧 健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~」